老人のたわごと　（その39）

老人のたわごと（その３９）　≪カタカナについての考察その１≫

　世の中には、死語となった単語が溢れています。言語は生き物で、様々な環境によって相互の通信、情報交換の手段としての言語も変わってゆくのは当然かも知れません。
　「ラブホ」という言葉も、「温泉マーク」から「連れ込み宿」「ファッションホテル」と変遷をたどっています。昔は「風俗」とは柳田邦男に代表される土着の民族伝統の文化を表わしていたのに、いまや片仮名で「フーゾク」といえば全く異なる不遜な意味に使われているのが現状です。
　「携帯」とは、携帯燃料とか携帯電灯、携帯食料といった携帯物品に使われていたのに、いつの間にか「ケイタイ」と片仮名でいえば携帯電話を意味しています。
　昔、在職した会社では、毎日の郵便物が山をなしていて、到着した郵便物を仕分けして各部門に配信する部署がありました。可愛い臨時雇用の若き人妻たちが、わいわいと賑やかに郵便物を仕分けしていました。この郵便物は各部署に配信され、そこでまた各部署のお嬢さんたちが更に細かく仕分けする次第で、この配信部隊が「メール」と呼ばれていました。
　定刻になると『今日のメールはまだ届かないか？』などと騒ぐ男どももいたのを覚えています。
　また、社内だけで社外には出ない郵便物は、「社内メール」という付箋をつけるだけで社内を配信されていました。
　このように、この時代には「メール」とは英語の直訳そのものの郵便を指していたのに、インターネットの発達によって、電子メールが一般化し、今や「メール」と言えばパソコンを通じて行われる電子メールを、場合によっては（若者たちは）「ケイタイ」での電子メールを指してしまいます。
　ローマ字のＨは、カナ読みをすれば〔エイチ〕または〔エッチ〕となりますが、どちらかと言えば〔エイチ〕に近く、ＮＨＫは〔エヌ・エイチ・ケイ〕でしょう。鉛筆の中硬は、
〔エイチビー〕です。ところが、不遜な行為の〔エッチ〕はあくまでも〔エッチ〕であって決して〔エイチ〕とは言いません。
　ついでながらこの語源は変態行為という単語のローマ字の頭文字のＨであって、これもいつの間にか語意が変わって不遜な行為そのものを意味するようになってしまいました。今の若い人に〔エッチ〕が変態行為を表している隠語だと言っても笑われるでしょう。
　ここのところ、変な発音もはやっています。インターネットの世界で通用するSMSの一種であるLINEも後ろに強調がくる変なアクセントですし、私は行ったこともありませんが、若い連中の集まり場所になっている〔クラブ〕も後ろに強調アクセントをもってきて、通常使う〔倶楽部〕とは違うものになってしまっています。

　カタカナは非常に便利ですが、本来の日本語を崩していっている面もあります。

（2015.01.26　梶原　孝生　記）